VO2max。マラソンランナーなら、何度も見聞きしたことがある単語だと思います。
しかし、深い部分までしっかり理解できている方はかなり少ないのではないでしょうか。
今回は、マラソンと大いに関係があるVO2maxについて解説します。
VO2max(最大酸素摂取量)とは?
VO2max(最大酸素摂取量)は、一言で言えば「1分間に体重1kgあたりに取り込むことができる酸素の最大量」のことです。
マラソンなどの全身運動において、筋肉を動かすエネルギーを作るには酸素が不可欠です。
そのため、VO2maxの値が高いほど、より多くのエネルギーを効率的に生み出すことができ、有酸素代謝能力が高いことを意味します。
VO2maxを決定する要因
VO2max(最大酸素摂取量)を決定する要因は、大きく分けて「酸素を運ぶ能力(供給側)」と「酸素を使う能力(消費側)」の2つのプロセスに集約されます。
これを生理学の式(フィックの原理)で表すと、以下のようになります。
VO2max = (心拍出量)×(動静脈酸素較差)
酸素を「運ぶ」能力(心血管系)
VO2maxを制限する最大の要因は、心臓から筋肉へいかに多くの血液(酸素)を送り出せるかという点にあります。
一度の鼓動で心臓が送り出す血液の量です。トレーニングを積んだランナーは心筋が発達し、心臓の容積が大きくなる(スポーツ心臓)ため、より多くの血液を一度に送り出せます。
最大心拍数は加齢とともに低下しますが、VO2maxを決定するのは「1回拍出量 × 心拍数」で決まる「最大心拍出量」です。
酸素を運ぶトラックの役割をする「ヘモグロビン」の量も重要です。貧血などでヘモグロビンが減少すると、運搬効率が下がりVO2maxも低下します。
酸素を「使う」能力(筋肉・細胞系)
筋肉に届いた酸素を、いかに効率よくエネルギー(ATP)に変換できるかという指標です。
筋肉の周りに毛細血管が張り巡らされているほど、酸素を受け渡す場所が増え、交換効率が高まります。
「細胞の発電所」と呼ばれるミトコンドリア内で酸素は消費されます。ミトコンドリアの数が増え、その酵素活性が高まるほど、大量の酸素をエネルギー供給に回せます。
持久力に優れた「遅筋(Type I)」はミトコンドリアが豊富で酸素利用能力が高いため、遅筋の割合が高いほどVO2maxが高くなりやすい傾向にあります。
その他の補助的要因
健康な人の場合、肺のガス交換能力がVO2maxの制限要因になることは稀ですが、トップレベルのエリート選手になると、心臓のポンプ機能が強力すぎて、肺での酸素取り込みが追いつかなくなる(運動誘発性動脈血酸素飽和度低下)ことが稀にあります。
VO2maxの伸びしろ(ポテンシャル)の約50%程度は遺伝によって決まっていると言われていますが、適切なトレーニングによってそのポテンシャルを最大限に引き出すことが可能です。
VO2maxが向上することで得られる3つのメリット
マラソンにおいてVO2max(最大酸素摂取量)が高まることは、単に「速くなる」だけでなく、レース中の戦略や体感に多角的なメリットをもたらします。
具体的には、以下の3つの大きなメリットがあります。
「余裕度」が劇的に上がる
VO2maxはエンジンの排気量に例えられます。排気量が大きくなれば、同じスピードで走っていても心肺にかかる負荷(相対的な強度)が下がります。
以前は全力に近い努力が必要だったペースが、リラックスして走れる「巡航速度」に変わります。
酸素を効率よく取り込めるため、レース後半でも呼吸が乱れにくくなり、冷静な判断(補給のタイミングやペース配分)を維持できます。
糖質の節約と脂肪利用の効率化
VO2maxが高いランナーは、高い強度の運動でも「有酸素運動」の範囲内で処理できる能力が高いです。
体内の限られたエネルギー源である「糖質(グリコーゲン)」を温存し、より豊富なエネルギー源である「体脂肪」を効率よくエネルギーに変えられる範囲が広がります。
ペースを上げた際に発生する乳酸を素早く再利用できるようになるため、脚が重くなる感覚を遅らせることができます。
レース終盤の「切り替え」が可能になる
VO2maxが高いことは、最大スピードの天井(ポテンシャル)が高いことを意味します。
心肺機能に余裕があるため、最後の数キロでペースを上げる余力が残ります。
コース上の上り坂では一時的に酸素摂取量が急増しますが、VO2maxが高いと、上り切った後のリカバリー(呼吸を整える)が非常に早くなります。
マラソンにおけるVO2maxの立ち位置
マラソンを完走する上でVO2maxは非常に重要な指標ですが、実はこれだけでタイムが決まるわけではありません。
- VO2max:最大スピード能力と余裕度を高める。
- ランニングエコノミー(RE):少ない酸素で効率よく進む技術
- LT(乳酸性作業閾値):限界ペースをどこまで引き上げられるか
「VO2maxが高い=大きなエンジンを持っている」ということであり、そこに「燃費(効率)」と「スタミナ(持久力)」が備わることで、マラソンの自己ベスト更新が現実味を帯びてきます。
VO2maxを向上させるトレーニング方法
VO2maxを決定する要因のうち、遺伝的な影響(最大心拍数や肺の大きさなど)を除いた「心臓のポンプ機能」と「筋肉の酸素利用能力」の2点は、トレーニングによって大きく向上させることが可能です。
具体的にどの要素がどのトレーニングで鍛えられるのか、整理して解説します。
トレーニングで向上する主な要素
トレーニングの刺激によって、以下の「酸素供給」と「酸素消費」のインフラが強化されます。
心筋が強くしなやかになり、一度に送り出せる血液量が増えます。
筋肉の隅々まで酸素を届けるルートが増えます。
酸素を使ってエネルギーを作る「発電所」が強化されます。
能力を向上させる具体的なトレーニング
VO2maxを高めるには、「最大心拍数に近い負荷」と「毛細血管を発達させる基礎負荷」の両輪が必要です。
①インターバル走(最大酸素摂取量への直接刺激)
VO2max向上のための「王道」メニューです。心臓に最大級の負荷をかけることで、1回拍出量を高めます。
- 内容:800〜1000m の疾走を、短い休憩(ジョグ)を挟んで数本繰り返します。
- 強度:5kmを全力で走るペース(最大心拍数の90〜95%程度)
- 効果:心臓のポンプ機能の強化、ミトコンドリアの活性化
②閾値走
VO2maxそのものだけでなく、VO2maxの何%の強度で走り続けられるかという「粘り」を強化します。
- 内容:20〜30分間、一定の速いペースを維持して走ります。
- 強度:「ややキツい」と感じる、1時間程度維持できる限界のペース
- 効果:毛細血管の密度の向上、乳酸を再利用する能力の強化
③長距離のジョギング(LSD)
強度は低いですが、時間をかけて走ることで酸素供給の「土台」を作ります。
- 内容:60〜120分、ゆっくりとしたペースで走り続けます。
- 強度:走りながら会話ができる程度
- 効果: 毛細血管の発達、ミトコンドリアの数の増加
トレーニングの組み合わせ例
VO2maxを効率よく引き上げるためには、高強度のインターバルだけでなく、低強度のジョグを組み合わせるのが定石です。
- インターバル走:週1回、心臓の最大パワー(排気量)アップが狙い
- 閾値走:週1回、効率的なエネルギー消費の獲得が狙い
- ジョグ:週3〜4回、毛細血管の維持、疲労抜き、土台作り
VO2max向上のための高強度トレーニングは、身体への負担が非常に大きいです。
「週に1〜2回」に留め、それ以外の日はジョギングや休養に充てることが、怪我を防ぎながら能力を向上させるコツです。
